JLA English Site

JLA 30th Anniversary

支援を通じてライフセーバーに期待すること:日本財団常務理事 海野光行様

2021.12.14 (Tue)

2002年から長きにわたり器材支援を通じて我々の活動を見守ってくださっている日本財団。

今回は、日本財団の海野常務理事にお話を伺いました。

日本ライフセービング協会に初めて助成した時の印象を聞かせてください。

 

海野:支援を始めて数年経った後に担当になりました。当時の理事長 小峯さんと、大会を支援するのか、地道な現場の活動の方を支援するのかを議論しました。

結果、大会ではなく現場の活動に支援した理由は、まだ生まれたばかりの団体であり、外から見ていると組織として脆弱な印象がありましたので、活動の基盤となるものを心配せずに行えるようになってほしいという思いからです。

現場の活動の基盤となる機材整備の支援とともに、子どもたちのライフセービングプログラムも始まり、そちらも支援を決めました。次世代の子どもたちに、事故を未然に防ぐ安全教育やライフセービング精神の教育を伝え、今後につなげていくような支援をしたいという思いがありました。

 

当時の日本ライフセービングセービング協会に対するイメージは?

 

海野:主に全国のライフセーバーに使って頂けるレスキューボードやレスキューチューブの、器材整備支援をしていました。私自身も海に行くことが多かったので、ライフセーバーの皆さんがレスキューの準備や活動をしている姿を見るのが誇らしい気持ちでした。

また、ライフセーバーの皆さんと事業を今後どのように進めていくか等の話し合いをしていく中で、ライフセーバーお一人お一人が、海が大好きだったり、人を助けたい思いなど、ライフセーバーにはまっすぐな人が多いという印象を受けました。

 

生まれたばかりの団体でありながら、まっすぐな想いを持つ人が多いライフセービングは、これからどんどん伸びていくのだろうと感じていました。ちょうどライフセービングの認知度が高まっていた時でもありましたので、ライフセーバーの皆さんと一緒に現場に出たり話し合ったりしたことは、勢いがあり、とても楽しくやりがいがありました。

 

特に印象に残っているのは、当時の理事長 小峯さんの、周りの人を巻き込んでいきながら事業を展開していく、その行動力や想いが凄かったことです。まさに「熱源」という感じがありました。人材育成もしっかりされていたので、その当時育てられた方々が財産となって、現在のライフセービング界のリーダーとして活躍している印象があります。

 

東日本大震災以降、国民の海とのつながりについて感じていることは?

 

海野:震災直後は海が怖いという印象を、特に親や子供たちが感じていました。海の事業に対して拒否反応を示す方が多く、どのように海の魅力や正しく恐れるということを伝えていくのかが課題でした。

数年後、小学生を対象に1年間で海に行った回数を調査したところ、4割の子ども達が0回という結果になりました。海に囲まれた海洋国家日本でありながら、海離れが起きているのは由々しき事態だと感じました。

 

現在、「海と日本プロジェクト」で海の魅力や災害時の対応など次世代の子ども達に伝えていくプロジェクトを始めています。ジュニアライフセービングのプログラムのような正しく恐れるということを、楽しみながら学べる安全教育は非常に良い事業だと思います。

また、一般的に海に行くことはお金と時間がかかります。日本には貧困家庭の割合も多くなってきているので、海に行きづらい人が多いことも現状です。どのように多くの国民に海に親しみを持ってもらうかということもライフセーバーの大切な役割だと感じます。

海水浴場という海の利用方法について

コロナ禍で海水浴場開設に賛否ありましたが、今後も海水浴場は必要だと思われますか?

 

海野: 半分半分なところがあります。

昔は、海水浴場は人と海の接点を持つ貴重な場であり、家族の時間でもありました。

しかし現在はいろんな海の楽しみ方があります。釣りも潮干狩りもヨットもダイビングもSUPもあったりと、人の趣向によっていろんな海の楽しみ方が増えてきているので、海水浴場の活用の仕方も変わっていくべきだと感じています。淡路島のビーチの事例では、夜に浜辺で映画を観るなどのイベントをしていました。実際にやってみると相乗効果があり、ビーチクリーンや町おこしの一貫にもなりました。

また、海水浴場のバリアフリー化も進んでいます。コンクリートのスロープをつくり、車椅子でそのまま海に近づける整備など、海水浴場もDiversity and Inclusionして利用者の多様性を尊重するようになってきていると感じています。

そういう意味でもライフセーバーの役割が今後増えていくのではないかと感じています。

日本財団として取り組まれている海と日本プロジェクトについて教えてください

 

海野:一言で表すと「子供たちを海に連れて行きたい!」という思いで始まったプロジェクトでしたが、予期せず参加した子供たちからスーパーキッズが生まれてくることが分かりました。

例えば、海の生物にのめり込むように研究をする子ども達に出会いました。現在の平等を重んじた日本の学校教育では補えない部分を担う教育プログラムを考えています。海と何かを掛け合わせて、海の違う側面を見せることによって、もっと海に興味をもってもらえます。

例えば、毎週日曜日に1年間かけて研究者と子どもたちがペアで一緒に1年間かけて海洋生物の研究をするしたりなどの海洋教育の基盤となる活動をこのプロジェクトで、今後どんどん展開したいと考えています。

 

もう一つ、重要視していることはゴミ問題、地球環境問題です。

私は環境問題の全ては海に関わっていると思います。CO2の吸収の1番は海、2番が森林であり、海の中は酸性化など急速な変化やいろんな問題が世界各所で起きています。

子ども達にこれからの未来をどうしていくかを問いかけながら教育や事業を進めていきたいと思っています。例えば、マイクロプラスチックなどを実際に手にとって真摯に感じられる子ども達を増やしたいです。真摯に課題を感じ、どのように解決していくか、地球や自分たちの未来を一緒に考えていくという、子どもの頃からの教育がとても大切だと感じています。

ぜひライフセービングでも安全教育だけでなく、環境教育も力を入れてほしいと思います。

海と日本写真1

熱源プロジェクト・海のキッズサポーター全国プレゼン大会(2021年10月30日)にて、海の生き物や環境問題について大人顔負けのプレゼンを行った子どもたち。

海と日本写真2

海洋ごみ対策に関して全国から優れた取り組みを募集・選定し、日本のモデル事例として世界に発信する、海ごみゼロアワードの2021年最優秀賞に輝いたブルーアースハイスクール・Blue Earth Projectの皆さん。

 

これからのライフセービングに期待することはなんですか?

 

海野:私自身もライフセーバーなので思うところがたくさんありますが、日本ライフセービング協会がで伝統を引き継ぎつつ、積極的に新しいことに挑戦し、高度化事業などの異分野との融合に取り組んでいることはとても良い方向だと思っています。自治体や公的救助機関,研究機関と連携した安全性の高い海水浴場(海岸)の創出を目指す高度化事業の活動を通じて安全な海岸の創生にむけて着実に近づいている気がします。

ライフセーバー自身の育成カリキュラムは人を助ける安全教育だけでなく、今後は一般市民との接点になるような、ライフセーバー個人の多様性を活かす教育も大切だと思います。

また私のようなシニアでもライフセービングに貢献できるような仕組みもほしいですね。

 

—–

 

インタビュー後記

 

私たちライフセーバーにとって海は身近なところであり、気軽にいつでも楽しめる場所という印象を持っていましたが、日本財団が行っている調査によると、小学生が1年間で海に行った回数は4割の子ども達が0回であったという結果や、子ども達が海に行くためには大人も一緒に行く必要があり、そうなるとお金も時間も手間もかかるので、意外と敷居の高い場所である、というお話を伺ってハッとしました。年間通じたライフガード活動を見据えたときに、単に安全を守るだけでなく、いかに海に親しめる環境を整えサービスを提供できるか、その役割がライフセーバーにもあるのではと感じました。それともう一つは海の環境問題。海洋ゴミを減らすためには、拾うことよりも捨てないことの方が重要なので、そのような子ども達に対する環境教育も重要であるということ。その一端をライフセーバーが担うことで年間通じた活動に繋げていきたいものです。

日本財団様には、これまで長期にわたって活動を支えていただいております。改めて心よりの感謝を申しあげると共に、その期待に応えられるように、これからもしっかりとこの活動を広げ、次世代に繋げていきたいと思います。

 

インタビュアー 入谷拓哉

 

お話ししてくれた方:日本財団 常務理事 海野光行様

1968年2月19日 生まれ。1990年に大学卒業後、日本財団(当時:日本船舶振興会)に入会。国内の福祉事業や財団の広報を経験した後、海洋部門に配属。以降 17 年にわたり国内外の海洋に係るプロジェクトを経験。2011 年からは常務理事として海洋部門を統括し「次世代に海を引き継ぐ」をテーマに事業を展開している。

 

皆さまからのご支援が
水辺の事故ゼロへつながります

皆さまからのご寄付はWater Safety教育の普及事業などに活用します