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東日本大震災から10年、ライフセービングに求められること:小山大介 宮城県ライフセービング協会

2022.04.11 (Mon)

2011年3月11日午後2時46分。

東日本大震災が日本を襲った日です。

 東北の太平洋側一帯は激しい揺れと津波に襲われました。私はあの時、感じた恐怖感を一生忘れることはありません。

 当時の私は、気仙沼本吉地域広域行政事務組合消防本部に勤務する消防吏員であり、震災当時も現場で要救助者の救助や救急活動を行っていました。災害対応に携わる職業に就いていたとしても、当時の状況はあまりに非日常であり、目の前の被災者の救助に全力で当たることだけで精一杯な毎日を送っていた記憶しかありません。                                    

 災害の急性期が過ぎて日常業務が再開され始めたころ、上司から休みを勧められた私は当初からの目標であったベーシックライフセーバーの取得を茨城県にある大洗サーフライフセービングクラブで行いました。大洗町も被災しているにも関わらず、講習会が行われ、そこで代表の足立正俊さん(現JLAスーパーバイザー)に出会い、共感したことが気仙沼にライフセービングクラブを設立すること、インストラクターを志したことに繋がりました。資格取得後、大洗サーフライフセービングクラブのガードに参加させていただき、クラブ運営やガードについて学ばせていただきました。私が当時、所属していた宮城ライフセービング協会(JLA未加盟、現解散)は活動していた浜が壊滅的な被害を受け、活動を無期限休止していました。そのような中で様々な人との出会いやご助言をいただいたことで、2011年11月7日、気仙沼ライフセービングクラブは産声をあげました。

 設立当時は、レスキューチューブ1本、リトルアン1体という器材しかない中で、災害に強い防災力が高い子どもを育てることを目指して、ジュニアライフセービングプログラムを開始しました。プログラム卒業者は公務救難機関で勤務する者、気仙沼に残りライフセービングに従事する者など様々です。

 震災翌年からは気仙沼市にある離島「大島」にある小田の浜海水浴場での監視救助活動を開始しました。クラブ員がほとんどいない中で、海のベテランである漁師さん(監視員)と各地から応援で来てくれたライフセーバー達がそれぞれの得意分野を生かして海水浴場の安全安心を協力して守っていた光景は今でも強く印象に残っています。

 

 震災復興期にはJLAより、指導員養成講習会を受講する機会を頂くことができ、それによって大きな被害を受けた宮城県・岩手県近隣のライフセービングクラブや各種団体へJLA認定講習会を提供することができました。このことは被災地におけるライフセービングによる復興への一つの要素になったのではないかと考えています。

 気仙沼LSCでは、私が震災直前に入手したPWC(水上バイク)による活動を震災後も積極的に今日まで継続しており、岩手県釜石市における「はまゆり国際トライアスロン大会」や「釜石OWS(オープンウォータースイミング)」、「希望郷 岩手国体」などで釜石ライフセービングクラブとPWC等を通した密接な連携関係を構築することができました。これにより多くの人的・物的交流が生まれました。また、2015年にはクラウドファンディングを活用したIRB調達事業を行い、ライフセービング界内外からの多くのご支援を受け、IRB(エンジン付きレスキューボート)「しぶき」を導入しております。

 海浜以外の分野へも当クラブでは積極的にアプローチを行っております。宮城県の夏の期間は非常に短く、これまで、多くの期間を自主トレーニングや資機材準備に充てることが常態化していました。その状況を解決しようと「青色防犯パトロール隊」を気仙沼LSCに設置し、ライフセーバーの救護技術やコミュニケーションスキルを活用しながら、通年を通してライフセーバーが地域全体の安全安心を守るという体制を構築しています。それに付帯して、自然災害被災地域への物資搬送活動や豪雨災害時等におけるIRB等を活用した救助活動体制の構築などをクラブ内で取り組むことにより、災害対応能力を備え季節や場所に囚われることがないフレキシブルなクラブ運営に努めています。

 震災から11年が経過し、被災地でも当時の凄惨さを視覚的に感じることができるものは少なくなってきています。それは震災を経験した人々の心の中においても同じ事です。一方で、自然災害は人間の社会生活に関係なく発生し、常日頃からの備えが必要不可欠であることは皆さんがご存じのとおりです。その中で、ライフセービングにできることは関係機関と連携し災害の凄惨を風化させることなく、次世代につなぐための人づくり「教育」であると考えています。

 災害の発生を防ぐことはできませんが、予め備えておくことで被害を軽減することはできます。多くの子どもたちや社会人がライフセービングのもつ防災という側面に触れることで自らを高め、新たな気づきを得ることで今後、発生が危惧されている災害において自らの生命を守りながら、その被害を軽減することができるライフセーバーが育っていくものと考えています。

 

寄稿:小山 大介(おやま だいすけ)

 2006年~気仙沼ライフセービングクラブ

人の生命にかかわる仕事に携わりたいという気持ちが強かったため、学生ながらにレスキュー活動や対人経験、人の生命を守るためにトレーニングをするという経験を積めるライフセービングに魅力を感じ、この活動をはじめる。

現在JLAにてアクアティックセーフティーコーディネーター、防災対策委員会委員を務める。

 

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