学生選手権などこれまで多くの競技会を開催地として受け入れてくださっている千葉県御宿町。
ライフセービングとの関わりにおいて町にはどのような効果が得られたのか。
今回は、御宿町長の石田義廣さんにお話を伺いました。
「史実からつながる文化としてのライフセービング」
町長にとって、海との関わりはどのようなものでしたか?
石田:今と違って、昔は小さい頃から海によく行きましたし、大好きです。子ども同士で海へ遊びに行き、砂浜で遊んだり、海に入ったり、自己流で遊んでいました。小学生の頃に磯場で遊んでいましたら、海が満ちてしまい、少し怖い思いをしたことがあります。とにかく、海とともに過ごした少年時代でした。
御宿町には海難事故の大きな史実があります。1609年、スペイン領フィリピン総督ドン・ロドリゴを長とする外国船サン・フランシスコ号が、メキシコへ向かう途中に台風で遭難、御宿沖で座礁し、多数の外国船乗組員が漂着しました。373名の乗組員のうち、残念ながら56名の方が帰らぬ人となりましたが、残る317名を村人が助けました。先人が行なったこの人命救助は、国を超えた人類愛として今に生きる我々の大きな「誇り」となっています。この御宿での出来事、そこから生まれた日本、スペイン、メキシコとの交流が記念され、1928年に日西墨三国交通発祥記念之碑(通称:メキシコ塔)が建立されました。さらに2009年、この史実に関わった先人の功績を讃え、日本メキシコ交流400周年記念式典が執り行なわれ、当時皇太子殿下であられた天皇陛下が実行委員会名誉総裁として御宿町へお見えになりました。本来なら、国同士の交流式典は東京なのだと思いましたが、御宿の海が繋いだ人類愛と国際交流が語り継がれることに胸が熱くなりました。
日本ライフセービング協会と協定を結んでいることをどのようにお考えですか?
石田:この史実からも、1996年からライフセービングスポーツの全日本学生ライフセービング選手権大会や、その後も国際大会を含めたいくつかの競技会を開催していただいていることに、とても深い縁を感じております。史実から町民の心に根ざした人命救助に対する思いは、地域の文化であります。ライフセービングの事業を受け入れることは、その文化を活性化することにつながり、単なる競技会場の提供ではなく、町の活力になっていると思います。ライフセービングは教育現場へも導入し、「命の海洋教育」として展開しておりますが、史実に基づく町の文化を語り継ぐ上でも重要なものになりました。
学校教育現場でのライフセービング導入についてはどう思われますか?
石田:ライフセービングの授業はプールや海でのフィールドワークが多く、実践的に命の大切さを伝えてくれていることが素晴らしいと思います。実際に地元の海で、体験するということが重要だと思います。ライフセービングは「命の海洋教育」として、海と人をつないでおり、命の大切さをしっかり感じてもらっているのではないでしょうか。
今後、ライフセービングへ期待することはなんでしょうか。
石田:人間にとって世界共通一番大切なのは人の「命」です。ライフセービングは、自分の「命」は自分で守り、誰かの「命」を人が助けるという姿です。「水辺の事故ゼロをめざす」という協会の理念は、この町の人命救済のスピリットにも通じており、子ども達をはじめ後世に伝える大切なものだと感じています。日本ライフセービング協会が取り組む事業は、子ども達や地域の活力につながります。協会の発展とともに、このような導入事例が全国へ広がることを願っています。
石田 義廣 プロフィール
御宿町生まれ。大学卒業後しばらく東京で働いた後、両親の勧めで地元へUターンして御宿町役場職員を経て町議会議員へ。より町の発展へ貢献したいと決意し、町長選挙へ立候補。現在、町長4期目として町政に従事されている。