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自治体とライフセービングが海を通して創る文化とは②:御宿町 林昌広様

2022.01.07 (Fri)

学生選手権などこれまで多くの競技会を開催地として受け入れてくださっている千葉県御宿町。

ライフセービングとの関わりにおいて町にはどのような効果が得られたのか。

今回は、御宿町観光協会の林昌広さんにお話を伺いました。

『命の海洋教育』の取り組み

 

小中学校で展開されているライフセービングを用いた授業を始めたきっかけと目的を教えて下さい。

林:2013年にインターナショナルサーフレスキューチャレンジ(ISRC)というライフセービングスポーツの国際大会が開催され、多くの外国人ライフセーバーが御宿に来てくれました。期間中のコンテンツとして異文化交流プログラムがあり、海外のトップライフセーバーが御宿の小学校や中学校を訪れ、また反対に子ども達が大会へ応援に行くというプログラムがありました。それがきっかけで、翌年から小学校中学校でのライフセービングの授業が始まりました。御宿町は、1609年に沖合へ漂着した外国船乗組員を村人が助けた人命救助の史実があり、ライフセービングへの理解がある町でしたが、教育と結びつけるというチャンスがありませんでした。また2011年東日本大震災を機に、小学校へ全児童数のライフジャケットが配備されたのですが、自然災害に備えるには、実体験が必要だと思っていました。そんな課題を抱いていた時に、異文化交流が良いヒントになったのです。教育委員会へ働きかけ、一時的なイベントではなく、発育に合わせて継続的な授業としてライフセービングを体験してもらうことが重要だと思いました。

 

実際の授業の内容を具体的に教えてください。

林:義務教育9年間が対象の、科目横断型教育として実施しています。コンセプトの中心は「命の海洋教育」です。御宿町は小学校が2つ、中学校が1つで、9年間の義務教育をほぼ同じコミュニティで過ごします。その中で、地域が持つ「海」という水辺環境に親しみを持つというところを重視しています。夏は観光地として賑やかなイメージなのですが、昔に比べると自分たちが慣れ親しむ「海」からは離れているように思えたので、そこへ戻したいという思いもありました。小学校では基礎学習として「反復学習によるセルフレスキューの習得」、中学校では応用学習として「道徳」「保健体育」「水泳」「総合学習」と4つの科目横断型授業を設定しました。小学生はプールでWater Safetyを中心にライフジャケットの正しい着用や浮き方、泳がないで助かる、助ける方法などを学び、中学生になると実際に御宿の海でサバイバルスイムやサーフスキルの習得、心肺蘇生やAED体験、が学べます。さらには、職業体験の一つとしてライフセーバー(希望者)も選択できるようになっています。

 

始めてから8年が経ちますが、どんな苦労や成果がありましたか?

林:義務教育9年間の中で、身体的、心理的発達に合わせながら反復することに工夫が必要でした。また、イベントではなく、授業として成立させるために、楽しいだけでなく、目的を示して習得してもらい、評価をすることに苦労しました。実は御宿の中学校にはプールがなかったので、施設を借りるなどしていました。学習指導要領に沿った水泳の内容をライフセービングのプログラムとして海で実施し、授業として成立させることにもトライしました。

教育委員会や町の産業観光課のバックアップもあり、海までのバス移動、更衣室、シャワー設備の提供支援など、町全体で後押しいただきました。そのような授業環境から、命の大切さだけでなく、かけがえのない地域愛の育成もできたら良いと思っています。教育成果をどう測るかは難しいところですが、将来この土地から離れたとしても、また戻ってくるという機運に繋がれば嬉しいです。中学生で選択できる職業体験で、ライフセーバーを選んでもらえた時も成果の一つと感じます。そこで生まれ育った人々が地元の海を守るというのは理想の一つです。

中学生の海の授業中にヒヤリとする場面もあります。しかし小学生の時から学んでいますから、自分で自己判断ができるようになっています。先生方も自然の力がどういうものか、実体験するライフセービングの魅力を理解してくださっていますし、ライフセーバーも指導者として加わりますので、安全管理の体制は整っています。

今後はどんなことを展望していますか?

林:御宿町の「命の海洋教育」を人の命を守る・助ける地域の文化として根付かせたいです。このような授業が、近い将来「ライフセービング」というワードで呼称され、理解され、通常のカリキュラムとして全国の義務教育に広がると良いと思っています。最近、授業を経験した子ども達や、海の授業をご覧になった保護者の方から「ライフセービングをやりたい!」と言ってもらえることが多くなってきたので、御宿ライフセービングクラブでもジュニアライフセービングプログラムの検討を始めたいと思っています。

 

林 昌広プロフィール

1978年生まれ。富山県出身。御宿町役場臨時職員を経て現在御宿町観光協会職員。御宿ライフセービングクラブ代表。千葉県ライフセービング協会代表。

拓殖大学入学と同時にライフセービング部へ入部し、御宿海岸でライフセービングを始める。卒業後もアスリートとしてライフセービング競技を続け、日本代表選手として国際大会で活躍。ライフセービングと向き合う地として御宿町へ移り住み、ライフセービングの学校教育導入をはじめとした地域発展、後進育成に努めている。

 

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