JLA English Site

JLA 30th Anniversary

ライフセービングスポーツがめざす未来:宮部周作

2022.02.01 (Tue)

 国際ライフセービング連盟は、2032年のブリスベンオリンピックでのオーシャンM種目採用を目指して動いています。JLAライフセービングスポーツ本部では、国際連盟と協力してその動きを後押ししつつ、来たるべき日に日本人選手が活躍できるよう準備を進めています。

 具体的には国内外の強化拠点整備や、強化プログラム、普及プログラム。さらには選手だけでなくコーチやスタッフの育成、国内競技会の盛り上げや、日本スポーツ協会加盟を通じた国内での地位向上や基盤整備などが含まれます。

 2032年に金メダルを狙いに行くだけではなくそれに向けた取り組みにおいて、スポーツを通じたライフセービング普及、また指導者や拠点、組織などのエコシステムを含めたライフセービングスポーツの全体環境を整備して残していくことを大きな目標としています。

 以下、これまでの競技会についての取り組みをまとめつつ、競技会の今後、そしてライフセービングスポーツの意義と課題についてあげていきたいと思います。

 ここ数年で国内競技会については大きな変化がありました。まずバラバラに存在していた競技会を「全日本シリーズ」、「全日本学生シリーズ」、「全日本ジュニア・ユース・マスターズシリーズ」と、3つのシリーズに整理しました。各シリーズごとに3戦ずつ競技会があり一年を通じて年間総合順位を競う形とすることで、各種目の偏りないレベルアップを図るとともに、似た形式で競われる世界大会を身近に感じることができるようにと願っています。

 全日本シリーズにおいては、今年SERC競技会を3年ぶりに復活させ、国際基準で行うことができました。全日本選手権では、協会主導の予選会ではなく各ブロックが本戦出場者を選出する形式へと移行がありました。各都道府県協会の皆様にとっては、コロナ禍の中ということもあり大変な苦労をされたと思います。改めまして深く感謝を申し上げます。コロナが収まって予選会を開催できるようになりましたら、各ブロック所属選手の本戦成績に応じて、配分される選出枠が増減される本来の形に移行していきます。これまでライフセービングスポーツが盛んでなかった地域に出場機会を創ることで、その全国的な普及を促すと共に、自分のクラブだけでなく同県や同ブロックの選手への応援など色々な形での盛り上がりを期待しています。各ブロックでの予選会実施については、協会として援助できるような施策を練っております。一刻も早くこれを実現し、各都道府県協会をサポートできるように努力してまいります。

 全日本学生シリーズにおいては、今年初めてSERC競技会を行い、今後も継続していきます。

 ジュニア・ユース・マスターズシリーズは、ビーチ種目とサーフ種目、プール種目という区分にすることにより、運営上の課題を解決するだけでなく、ジュニア・ユース世代という発達期間においてさまざまな動きの体験やトレーニングを促す流れを作りました。またマスターズ競技会を併催することで、OBOGだけでなく保護者の参加機会を作り、世代を超えて一緒にできる生涯スポーツとしてのきっかけ作りを狙っています。

 現状多くの競技会の参加条件にライフセービング認定資格が必要となりますが、それを必要としない競技会として種目別選手権(サーフカーニバル)やジャパンオープン(プール)をシリーズの外側で行うことで、他競技経験者の新たなライフセービングへの入口としました。また海外選手にとっても参加しやすいように英文の参加申込書や手続きなども整備してまいりました。

 将来の競技会の方向性として模索していることを、3つあげたいと思います。

 1つめはその価値を高めていくことです。具体的には参加者が共有しやすいコンテンツの発信、映像配信、また競技会会場での体験向上などを目指していきます。

 2つめはネットベースのシステム構築により、競技会参加に関わる事務作業を軽減することです。これは協会主催の競技会だけでなく各都道府県協会や加盟クラブにも利用できるようにし、それにより地方予選やローカル競技会の開催に係るもろもろの事務作業を軽減して、小さな競技会が各地で行われる動きを後押ししたいと考えます。

 3つめとしては競技会の新設です。全日本IRB競技選手権(仮称)の新設によりIRBとIRB競技の普及を目指しつつ、2018年から始まった世界選手権のIRB国別対抗戦など国際大会にむけたステップとすること。またオーシャンMグランプリシリーズ(仮称)の新設により、10年後のオリンピックを見据えた普及・強化の場を作ることです。オープンだけでなくユースのカテゴリーも設けることで、早い段階からの強化を目指したいと考えます。

 ライフセービングスポーツは、実践です。体力、技術、そして環境を読む力の向上は、自分自身と人を守る力の向上に繋がります。そして競技会やそれに向けたトレーニングは、これらの力を楽しく効率的に向上することができます。

 ライフセービングスポーツは、マルチ・スポーツであり、自然体験です。走ったり、泳いだり、漕いだり、また水中を3次元に使ったりします。さらには短距離や長距離など、様々な動きの要素や種目があります。整備管理された環境ではなく、絶えず移ろう不安定な自然環境の中で行われるため、その力をどう避け、またどう利用するか、さらには変化の先を読むことが問われます。

 ライフセービングスポーツには大きな可能性がある反面、課題もあります。器材の購入費用、トレーニング場所(海、砂浜、プール)へのアクセスにお金と時間がかかりがちであること。またコーチングに加えて自然環境のリスク管理ができる指導者と、その育成プログラムの構築が重要となります。さらに実際に選手が活躍できる場、競技会の数もまだまだ少なく、一部の地域に偏っている現状があります。

 これらの課題を少しでも解決し環境を整え、スポーツを通じてライフセービングを全国に広げたい。しかしながらこれには協会の努力だけではなく、各都道府県協会や加盟クラブの協力が欠かせません。全国のライフセーバーが連携を取り、「ライフセービングスポーツは楽しい」を合言葉に一緒に歩んでいただければ幸いです。またライフセービングスポーツとライフセービングの持つ価値を、より多くの方や組織と共有し、体験いただき、仲間になっていただければと考えます。

 その先に、全国津々浦々へのライフセービングスポーツの普及とたくさんの笑顔、それによる水辺の安全と、輝く金メダルが待っているはずです。

寄稿:宮部 周作・みやべ しゅうさく

Photo by 緒形清

1992年~成蹊大学LSC、白浜LSC(吉佐美LSCと統合され下田LSCとなる)、下田LSC、Alexandra Headland SLSC(豪州)、Maroochydore SLSC(豪州)

大学で歩いているところ、声をかけられてライフセービングをはじめる。 

現在JLAにおいて、常務理事・スポーツ本部長を務める。

国際ライフセービング連盟ではスポーツ委員、国際ライフセービング連盟スポーツ委員会マルチスポーツゲームズ分科会長を兼任。

 

皆さまからのご支援が
水辺の事故ゼロへつながります

皆さまからのご寄付はWater Safety教育の普及事業などに活用します