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JLA 30th Anniversary

国民皆泳の実現に向けて:日本水泳連盟 鷲見全弘様

2022.03.15 (Tue)

この度、公益財団法人日本ライフセービング協会が創立30周年を迎えられましたことを、心よりお祝い申し上げます。

貴協会は平成3(1991)年の設立以来、30年間の長きにわたり、わが国の水辺の安全を守る統括団体として、全国規模で、地域に根差したライフセービング活動の普及発展に多大な貢献を果たしてこられました。熱意をもって弛まぬ努力を積み重ねてこられた多くの先達、歴代理事長、役員ほか関係者の皆様に心から敬意を表します。

 

1,水泳とライフセービングは一心同体

四方を海に囲まれたわが国の「人と水との関わり」は歴史が古く、3世紀に書かれた有名な『魏志倭人伝』には、「今倭の水人、好んで沈没して魚蛤を捕え…」とあります。古代、主に狩猟や移動の手段であった水辺の活動は、戦乱の世になると武術(水術)として、江戸時代に入ると武士が習得すべき嗜み、武芸の1つとして発展しました。

明治維新以降の近代に入ると、「水を泳ぐこと(水泳)」の対象は武士から庶民に広がりました。当時は陸上交通網が未発達で海上交通中の水難事故も多かったことから、身を守るための術として水泳は広く国民に普及していきました。また学校教育の正課に取り入れられたことから、全国各地の学校で遠泳が行われるようになりました。ただし、その主目的は速さを競うことではなく、水の中で自らの命を守る心構えや技術を習得することでした。速さを競う水泳(競泳)が盛んになるのは各地に水泳プールが建設され始めた20世紀に入ってからのことです。このように、水泳には古くから「水辺の事故をなくす」という目的があり、ライフセービングと一心同体の関係にあります。

2,ともに歩んだオープンウォータースイミング(OWS)の普及発展

現代の水泳競技は、競泳・飛込・水球・アーティスティックスイミング(旧シンクロナイズドスイミング)・オープンウォータースイミング(OWS)の5つのオリンピック競技種目から構成されていますが、わが国のOWSの普及発展は、貴協会ならびにライフセーバー各位のご協力があってのことと心から感謝しています。

海や河川などで5~25kmもの長距離を泳ぐOWSは、2008年の北京大会からオリンピックの正式種目になりました。欧米や豪州などでは盛んなOWSですが、私がOWS委員長を拝命した2005年当時、日本国内では選手数も大会数も少なく、オリンピックなど「夢のまた夢」、遥か彼方の存在にしか思えませんでした。とは言え、オリンピックの正式種目になった以上は何としてもこの競技を日本に根付かせ日本人選手をオリンピックに出場させたい、との一念から、2006年11月17日、東京・浜松町の貴協会事務所に小峯力前理事長を訪ね、大会の安全支援のお願いにあがりました。その際、小峯前理事長にご快諾をいただき、以来、大会やクリニックにおける安全支援、審判や指導者の育成、教本やガイドラインの策定など、OWSの全般にわたり、貴協会ならびにライフセーバー各位の全面的なご協力を賜りました。

その後、わが国のOWSは2012年のロンドン大会でオリンピック初出場、2016年のリオデジャネイロ大会でオリンピック初入賞(8位)を果たすまで競技力が向上しました。また2016年の岩手国体から国民体育大会の正式種目にもなり、全国各地で選手・指導者・審判員が拡充し、今日では、年間17大会から成る「日本水泳連盟認定OWS大会サーキットシリーズ」を、北は北海道屈斜路湖から南は鹿児島県屋久島に至る全国各地で開催できるまでになりました。

まさに日本のOWSの普及発展は、貴協会とともに歩んだ協働の証そのものです。この場をお借りして、改めて厚く御礼申し上げます。

3,「国民皆泳」の実現に向けて

現在、日本水泳連盟は「国民皆泳」を普及事業の使命として掲げています。水泳の普及に努め、「国民皆泳」を実現して、人々の健康保持・増進と水難事故防止に貢献することを目指しています。

わが国における水泳の現状を見ると、平成28(2016)年度の「総務省社会生活基本調査」では、年に1回以上泳ぐ10歳以上の人口は1243万人で全人口の10%弱に過ぎません。学校体育における水泳授業は年々制約が多くなり、教員採用試験で水泳実技を行わない自治体が増え、結果、泳げない教員が増えています。近年では、老朽化の目立つ公立学校のプールがリニューアルされずに取り壊される事案も散見されます。かつては常に身近にあった水泳が、年々、我々の日常から離れつつあります。

「泳げない子供・泳げない大人」を減らし、将来、国民全員が泳げるようになることは、水害の多いわが国の重要な防災対策の1つとも考えられます。この遠大な使命の実現に向けて、「水辺の事故をなくす」という共通の目的をもって、貴協会と再び協働できれば幸甚に存じます。

 

結びに、創立30周年という佳節を機に、関係者の皆様がさらに結束を固められ、貴協会が益々飛躍されますことをご祈念申しあげ、お祝いの言葉と致します。

 

*集合写真について

2010年7月に千葉県館山市で撮影。

前列右から1人目・石井セイフティオフィサー、3人目・小峯前理事長、4人目・筆者、

前列左から1人目・入谷理事長、4人目・鈴木大地日本水連会長、

後列右から1人目・川地事務局長、4人目・安田セイフティオフィサー。

 

・寄稿:鷲見 全弘(すみ まさひろ)様

公益財団法人 日本水泳連盟 常務理事

 

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