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私とライフセービング

Vol.74 – 岡部 瑠衣 / Rui OKABE

2025.06.20 (Fri)

私とライフセービング

海のない埼玉で育った私は、
まさか「海で人を守る」人生に惹かれる日が来るとは思ってもいませんでした。

高校2年生の3月、水泳と勉強を繰り返す日々を送っていた私に、ある転機が訪れました。
母が交通事故に遭ったのです。東日本大震災の影響で信号が止まっていた中、自転車で通行中に大型トラックに巻き込まれてしまいました。
本当にギリギリのところで命は助かりましたが、そこから約1年間の入院生活が始まりました。

母の不在によって、“何もできない自分”に気づかされました。
料理や洗濯などの家事をはじめ、病院の手続きやお見舞いの準備、水泳の月謝の振込など、やるべきことは山ほどありましたが、どれも本当に手こずりました。
涙が止まらなくなり、溜まっていく洗濯物に顔をうずめていた日々を今でも覚えています。

それまで私は、勉強も水泳も一生懸命頑張ってきたつもりでした。誰よりも努力しているとさえ思っていました。
しかし、その努力はすべて“自分のため”であり、それ以外のことが何もできない自分に、大きく失望したのです。
(もちろん、1つのことを極め続けている方々が本当に素晴らしいということは、大前提としてあります。)

一方で、お見舞いに行くたびに、お医者さんや看護師さん、薬剤師さん、理学療法士さんなど、「人のため」に奮闘されている方々の姿に、心から感動しました。
そのとき、私は決意しました。
「大学生になったら、人のためになる活動をしよう」と。

サークルの数が日本一とも言われる早稲田大学であれば、きっと“人のためになる活動”が見つかるはずだと思い、志望校を決めました。
最後のインターハイがかかる水泳、受験勉強、慣れない家事、お見舞い(思うような頻度では行けませんでしたが)、そしてアルバイト。
1日の睡眠時間が1時間あれば良い方という状況でしたが、「大学生になったら人のためになることをするんだ!」という強い意志と目標があったからこそ、乗り越えることができました。

無事に志望校に進学してからは、“人のためになる活動”を求めて、ボランティア系のサークルを中心に見て回りました。
そんな中、別のサークルの新歓で出会った同期から、「ライフセービング」という活動を教えてもらいました。
一度新歓に行ってみたところ、その魅力にどんどん惹かれていきました。
人のためになる活動であり、今まで頑張ってきた水泳も活かせる。
「これをやろう!」と決意しました。
これが、私とライフセービングとの出会いです。


多くの人の笑顔を見ることが出来る、このガード期間がたまらなく好き

ライフセービングで学んだこと

ライフセービングを始めてからは、無我夢中で取り組み、本当に多くのことを学びました。
その中でも特に大きく学んだことが2つあります。

① 「人のため」であれば、より頑張れる。よりワクワクする。

始めた当初は、正直センスもなく、先輩や同期についていくのに必死でした。
冬の荒波の中での練習、夏前のシミュレーション訓練、ガード中や大会で思うように力を発揮できない日々……。
そのたびに悔しさでいっぱいになりましたが、憧れの先輩方の姿を見るたびに、「最強の救助能力を身につけたい。そしてそれをチームに還元できる人になりたい」と思いました。

学生時代は「練習→授業→アルバイト」、社会人になってからは「練習→仕事」の日々。
再び睡眠時間を削る生活ではありましたが、不思議と全く苦ではありませんでした。
それは、夏の監視期間中に海水浴客が安全に楽しみ、幸せそうな笑顔で帰っていく姿を見るのが、たまらなく好きだったからです。
その光景を想像するだけで力が湧き、頑張ることができました。

全日本選手権やインカレで自身が優勝したことも、早稲田大学や鹿嶋チームが優勝したことも、国際大会に何度か出場させてもらったことも、もちろん嬉しい出来事です。
しかし、それ以上に嬉しかったのは、自分の救助能力の向上が、浜の無事故達成に微力ながらも貢献できたと感じられたこと。
海水浴客の笑顔を一つでも多く生み出すことに、携われたと感じられたことでした。

このように、「自分のため」だけでは耐えられないようなことも、「目の前の人を喜ばせたい、楽しませたい」という思いがあれば、自然と頑張れる。
そして、そのプロセス自体がワクワクする。
高校生まで“自分のため”に生きてきた私にとって、これはとても新しい気づきでした。

この気づきは、現在の仕事にも活きています。
食品メーカーで働く私は、以前は営業としてお客様の課題解決に取り組み、現在はトップアスリートのコンディショニング改善をサポートする業務に携わっています。
どちらも「目の前の人の役に立つ」ことでワクワクし、大きなやりがいを感じています。
ライフセービングは、私の仕事の選択にまで影響を与えてくれたと思っています。


もっと強くなりたいと心から思った国際大会

一緒に頑張ってきた大好きな仲間との大切な思い出

② 「みんな違って、みんな良い」ということ

ライフセービングには、本当にさまざまな活動があります。
水辺の事故ゼロを目指すという前提のもと、「教育」「救命」「スポーツ」「環境」「福祉」など、多様な関わり方が存在しています。

私が所属しているNPO法人 鹿嶋ライフガードチームもdivision制を取り入れており、多岐にわたる活動を展開しています。
その中で、メンバーの活躍の形も本当にさまざまでした。

リーダーシップを取るのが得意な人、小さな子どもへの声かけが上手な人、絵が得意でチームグッズをデザインする人、イベント企画が得意な人、美味しい料理で仲間を元気にする人、周囲の変化にいち早く気づける人、誰よりもゴミを拾う人、リペアが上手な人、地域や学校との関係構築が得意な人……。
どれも私には真似できず、それぞれがとても素敵で魅力的でした。

そして、それらすべての活動が、結果的に「海水浴客を安全に楽しませる」という共通のゴールに繋がっていると感じました。

かつての私は「1番を取った人が偉い」「強い人(速い人)がすごい」という競争的な価値観を強く持っていました。
そんな私にとって、「目に見える結果だけでなく、人の良さは多様である」と知ったことは、大きな学びでした。

夏の監視期間中も、厳しい冬の活動も、寝食を共にした仲間がいたからこそ気づけたことです。
先輩や同期・後輩のおかげで、私自身も海のバリアフリー化を実現したり、FAマニュアルを作成したり、学校訪問に積極的に参加したり、ホームページやSNSの活性化に取り組んだりと、さまざまな経験を通じて多くの学びを得ることができました。

ライフセービングは、私に「本当の意味でのダイバーシティ」を教えてくれました。
一人ひとりの良さに目を向けられるようになったことで、多くの人とポジティブな気持ちで関わることができるようになりました。
それがとても嬉しく、楽しいと感じています。

実は、この学びは子育てにも活きています。
もちろん、一番可愛いのは我が子ですが、周囲のお子さんたちもそれぞれ素敵なところがあり、心から「可愛い」と感じます。
老若男女問わず、誰にでも素敵なところがあり、出会いの数だけ自分の中の「好き」が増えている気がしています。


大会の企画・運営。参加者の笑顔をたくさん見ることができた。またやりたい!

最後に

私にとってライフセービングとは、「人のために生きることの喜び」を教えてくれた原点です。
今まで関わってくださった多くの方々に、心より感謝申し上げます。
そして、これからもさまざまな形でこの活動に携わっていけたらと思っております。


ライフセービングを通して出来た素敵な繋がりに大感謝。
岡部 瑠衣 (高柴 瑠衣)
Rui OKABE

早稲田大学ライフセービングクラブOG
NPO法人鹿嶋ライフガードチーム所属
ハイパフォーマンスチーム 第8期、9期、11期、12期生

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