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海やプールで溺れないクラゲにさされたら

プールで事故を起こさないために

2024年現在、海辺の監視救助活動に必要なJLA資格を有するライフセーバーは全国約200ヶ所の主要海水浴場で活動しています。毎年平均すると約1,100万人の利用者が訪れたCovid-19による影響前の2013~2019年の海水浴場では、2,000~3,000件/7,8月のレスキュー事案が発生していますが、応急手当はその数を大きく上回る20,000~25,000件でした。2013~2019年の応急手当は約12,200件/7,8月ですが、このうちクラゲによる刺傷被害への対応は約7,800件であり、応急手当全体の約6割がクラゲ対応でした。

図-1 ライフセーバーが活動する全国約200ヶ所の海水浴場の総利用者数とFA対応(クラゲ、その他)

上記の事から、クラゲ刺傷被害への対応について各海水浴場では、下記に示した最新の情報を元に、統一した応急処置が海水浴場利用者から求められます。

クラゲに刺された時に一番重要なこと

すぐに海から上がりましょう!

クラゲに刺された後で数分経ってからアナフィラキシー症状を引き起こすことがあります。その場合、溺水に繋がる危険性があるため、受傷直後の痛みの度合いに関係なく、クラゲ刺傷後はすぐに上陸することが大切です。アンドンクラゲ、ハブクラゲやキロネックス・フレッケリを始めとする立方クラゲ(ハコクラゲ・箱虫綱(はこむしこう)とも呼ばれる)には食酢(4%酢酸溶液)が有効であり、これらの刺胞に食酢をかけると、刺糸(毒針)がまだ発射されていない刺胞に食酢に含まれる4%酢酸溶液が作用し、毒針発射機能を不活性化することが分かっています。もちろん、体内にすでに入ったタンパク質毒素(細胞を壊したり、神経に作用する)などは不活性化しません。

応急処置

世界中の海に生息するクラゲは数多くの種類が存在しますが、ここでは、日本国内の海水浴場で被害にあうクラゲのうち代表的なクラゲへの応急処置法を紹介していきます。

<1> 触手を取り除く(触手が視認できるほど残っている場合)

刺されたときに患部にそのままクラゲの触手が貼り付いて残っている場合があります。クラゲの触手は粘着性があることが多いためです。そのようなときは触手をそのままにしておくと、さらに未発射の刺胞で刺される場合がありますので早急に対処しましょう。(写真には実際にはクラゲの触手は付いていません。)

まだ刺傷部位にまだ貼り付いているクラゲ触手は手袋着用やピンセット等指でつまんで手早く静かにはずしてください。指で触手を取り除く場合、指の腹の皮膚は、他の皮膚に比べて厚いのでまず刺されることはありませんが、触手やわずかに残った刺胞が付着した指で顔など他の部位を触るとその部位がクラゲ刺傷の二次被害を受ける可能性があります。クラゲ触手をつまんだ指および手はすぐに海水もしくは水道水で良く洗ってください。

<2> 洗い流す(触手が視認できない場合は不要

触手が絡みついて<1>では取り切れない場合
クラゲに刺された患部を海水中で洗います。
真水(水道水)で洗った場合には、未発射の刺胞が浸透圧ショックにより毒針をさらに発射して症状が悪化することもありますので、海水で洗い流してください。海水で洗い流す際も、刺胞を刺激しないようにできれば優しく行うことが重要です。

視認できない刺胞をできるだけ刺激したくないので、触手が視認できないときは海水で洗って刺胞を不用意に刺激しないでください。温めるか冷やすの次のステップへ

<3> 温める、冷やす

患部を「温めるか」、「冷やすか」、どちらのほうが良い対処法かについては、専門家の間でも意見が分かれています。なお、蜂と同じように複数回刺されると「アナフィラキシーショック」を起こす可能性もあるため、クラゲに刺されたと感じたら一番重要なことは、海から上がることです。「アナフィラキシーショック」は刺された後、10分から15分後に起こる可能性があります。それが溺れる原因となる可能性がありとても危険です。海から上がり、応急処置が済んだら、医療機関での受診をお勧めします。。

温める場合

クラゲの毒の主成分はタンパク質毒素であり、タンパク質毒素は40度以上の熱に弱い特徴があります。痛みが落ち着く程度の温度(40度以上)に湯加減をして患部にお湯をかけつづける、もしくはお湯の中に患部をつけておくという方法が一部で行われています。

冷やす場合

刺された箇所は腫れて熱を持つため、冷やして血管を収縮させて、痛みを和らげます。冷やす場合は、保冷剤や冷たいペットボトルの飲み物などで冷やしてあげるとよいでしょう。

お酢を使う場合

刺された傷口にお酢(食酢:4%酢酸溶液)を使うという民間療法があります
しかしアンドンクラゲやハブクラゲなどの立方クラゲ類は刺胞が不活性化されて効果はありますが、カツオノエボシやアカクラゲの応急処置に使うと逆に刺胞が反応して毒針を発射するといわれているため、刺されたクラゲの種類がわからない場合はお酢の使用は禁忌です。刺胞毒に対する反応は個人差があるため、刺された痕を見て、何のクラゲに刺されたか判断するのは困難です。(基本的に、沖縄県でのクラゲによる激しい刺傷はほぼハブクラゲによるものなので、ほとんどすべての症例について食酢を使用してかまわないでしょう。しかし、九州以北、本州での激しい刺傷被害について、刺されたクラゲの種類がわからない場合はお酢の使用は禁忌です。

日本で被害にあいやすい代表的なクラゲ

世界中の海に生息するクラゲは多くの種類が存在しますが、ここにあげるクラゲは、日本国内の海水浴場で被害にあうクラゲのうち代表的なものを紹介していきます。

アンドンクラゲ

無色透明で目立たず、比較的高速で遊泳します。

図1 刺胞のメカニズム

刺胞のメカニズム(図1)刺胞は餌や敵と触れたときに物理的・化学的刺激によって瞬時に刺胞から刺糸(毒針)を発射して、相手に毒液を打ち込みます。

刺胞毒の反応には個人差があります。

刺された痕が、火傷痕のようにケロイド状となって長い期間残る場合があるため注意が必要です。ただし、アンドンクラゲ刺症での死亡例はありません。

また、遅延型アレルギー症状により刺された後から1週間程度にわたり患部に寝付けないほどの強いかゆみを感じることがあります。これは、適度に温かいお湯に患部を浸すとかゆみが緩和されることが知られています。

海中では視認しにくい

アンドンクラゲは、刺胞動物門箱虫綱に属し、文字通りアンドン型(立方体)のような形状の傘を持ち、その4隅から触手が伸びています。体全体がほぼ無色透明であり水中では目立たず、海中にいると極めて視認しづらい生物です。

アンドンクラゲの属する箱虫綱にはハブクラゲやヒクラゲ等、刺傷時の被害が激しいクラゲ類が多く存在します。ハブクラゲの近縁種である世界で最も危険なクラゲChironex fleckeri (キロネックスフレッケリ)はオーストラリアのみに分布しており、死亡事故が多発するため現地ではクラゲ抗毒素血清が使用されています。(日本ではまだクラゲ抗毒素の使用は認可されていません。)クラゲ類の刺胞毒の多くはタンパク質毒素であり、複数回刺された場合にはアナフィラキシーショックを起こす可能性もあるので注意が必要です。

集合して存在する場合も

大潮のときなど、ときおり、アンドンクラゲが多数群れているのを見かけることがあります。こういったところにクラゲに気づかずに立ち入ってしまうと、非常に悲惨な事態になります。
クラゲが集合する理由はわかっていません。またアンドンクラゲなど立方クラゲ類は構造的にヒトに近い良い眼を持っていますが、けして眼で像を見ているとは考えられず明暗のみ程度の判別ができると考えられています。それからクラゲは眼で選別して、刺す相手を決めているのではなく、たまたま漂って(泳いで)いるところに触手がたまたま触れたものを刺すだけです。クラゲ側から刺しに来ることは絶対にありません。

カツオノエボシ

美しい浮袋に惹かれて触ってしまうと…

変わり者のクラゲ

カツオノエボシはクラゲの仲間として一般的な鉢虫綱や箱虫綱に属するクラゲ類とは異なります。カツオノエボシは、ヒドロ虫の仲間に属しています。そして、1個体に見えますが、実は触手担当・浮袋担当など、多くのヒドロ虫が集まって形成された群体生物なのです。
本州の太平洋沿岸にカツオが到来する時期に海流に乗ってきて、浮き袋の見た目が烏帽子に似ていることから三浦半島や伊豆半島でカツオノエボシと呼ばれるようになりました。

特殊な移動手段を持つ

大きさ約10cmの透き通った鮮やかな藍色を含む浮き袋をもち。中には気体(一酸化炭素など)が詰まっていて、この浮力で海面に浮かんでいます。浮き袋は常に膨らんでいるわけではなく、必要に応じてしぼみ、一時的に沈降することもあります。また浮き袋には三角形の帆があり、風を受けて移動することができます。カツオノエボシ自身には遊泳力はほとんどありません。本来は外洋性で、私たちの生活圏とは離れたところに生息しているのですが、強い風や台風の影響で日本沿岸に吹き寄せられることがあります。ときどきたくさんのカツオノエボシが海水浴場に漂着してニュースにもなります。

美しい浮袋は危険なワナ…

浮き袋から海面下に伸びる触手はリラックスした状態で平均10m程度、長いもので約50mにも達し、触手が何らかの刺激を受けると、表面に並んでいる刺胞から刺糸(毒針)が発射されます。そして相手に刺胞内に貯めこまれていた毒液を注入するのです。
人にとっては非常に危険な生物です。触手に強力な毒をもち、刺されると強烈な電撃を受けたかのような激痛があります。患部は炎症を起こして腫れ上がり、痛みは長時間続きます。二度目に刺されるとアナフィラキシーショックというアレルギー症状が出る場合があり、カツオノエボシに刺されて、数分から15分くらいで発症するといいます。
その症状は、さまざまで、全身性じんましん、くしゃみ、咳、呼吸困難、悪心、嘔吐、脱力感、心悸亢進、不安感などが出ます。ショック死する危険性もあります。

アカクラゲ

赤い縞模様から、連隊旗クラゲともいわれます。このクラゲを乾燥させた粉末がクシャミを引きおこすことからハクションクラゲの別名もあります。

アカクラゲに上唇を刺された状態

毒性は強く、かなり痛いことが知られています。ただし、今まで死亡例などは報告されていません。

監修 東京海洋大学 永井宏史教授


参考文献
塩見一雄・長島裕二『新・海洋動物の毒』成山堂書店, 2013
永井宏史「刺されて中毒; 特にクラゲについて」『中毒研究』 29(1): 10-15, 2016
一二三亨『今すぐ知りたい血清療法の謎となぜ55・実臨床』日本医事新報社, 2023
財団法人亜熱帯総合研究所『海の危険生物治療マニュアル』(財)亜熱帯総合研究書, 2006
水口博也・戸篠祥『世界で一番美しいクラゲ図鑑』誠文堂新光者, 2022

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