現状の津波ハザードマップや津波避難訓練
東日本大震災では、それまで想定されていた災害の規模や被害の大きさを遥かに超えるものであり、それ以降、国や地方自治体が想定するあらゆる対策が見直され、津波ハザードマップなどについてはどこの自治体においても変更がされてきました。ライフセーバーも新たに書き換えられた津波ハザードマップを基に、自分たちが活動する海岸地域での津波避難経路や避難場所の確認や、行政・地域住民と合同の津波避難訓練などを実施しています。また地域によっては、海岸付近に高台や高い丈夫な建物が無い場合において、避難場所として津波避難タワーが建設されるなど、海岸利用者にとって安全が確保できるような対策が取られてきています。
神奈川県鎌倉市においては、津波シミュレーション動画「8ミニッツ 鎌倉で津波から生きのびる」が公開されています。鎌倉市に大きな津波被害を及ぼすと考えられている津波は2つのタイプがあり、早いものは地震発生からわずか8分で沿岸に到達すると予測されています。その動画の中では、実際に海岸から避難する様子も収録されており、自分が避難するイメージが持てるよう効果的に描かれています。
私たち日本ライフセービング協会も、国や地方自治体と協力してこのような取り組みを効果的に活用していく必要があると考えています。
鎌倉で津波から生きのびる(英語字幕版 English subtitles)
*このYouTube動画では東日本大震災の実際の津波映像も映っています。
海岸から避難場所までの移動が実施の動画で分かりやすくなっています。(5分50秒ごろ由比ヶ浜、8分50秒ごろ七里ヶ浜)
夏期海岸利用において見えてきた新たな課題
地方自治体によって改定された新たな津波ハザードマップには、地震や津波に耐えうる丈夫で高い建物が避難場所として指定されています。さらに周辺にそのような建物がない地域では、津波避難タワーが建設されて対応できるように整備されてきました。これによって、その地域に居住する住民は、より早く避難することが可能になるでしょう。
一方で、海水浴シーズンはどうでしょうか。1日に数千人から数万人の利用者が訪れるような海水浴場では、現状の避難場所で十分なのか? 数万人の遊泳客が海岸を利用している日中にもし津波が発生した場合、これだけの人々を無事に避難させられるだけの十分なスペースや場所があるのか?
さらに、多くの遊泳客は海岸を利用しているときは裸足になります。そんな時に津波が発生し慌てて避難する状況で靴を履くことが可能なのか?人によってはそのまま裸足で避難場所まで移動することになるかもしれません。その時いま想定される時間内に安全な場所まで避難できるのか?
より具体的なシミュレーション動画によって、新たに見えてきた更なる課題です。国や地方自治体が積極的に取り組んでいる防災に対して、私たち海水浴場(または海岸)利用者も積極的に考えていく必要があります。国、地方自治体、そして民間組織が同じ目標のもと取り組むことで効果的な防災対策が整うのかもしれません。これからの防災対策に求められていることのひとつです。
■鎌倉ライフガード メッセージ 2021.3.5■
三方を山で囲まれた鎌倉は、景観法により津波避難ビルの高さ基準を満たすビルも少なく、海岸線の津波避難タワーなども存在しないため、津波発生時には迅速に山沿いの高台まで避難することが求められます。
夏の海水浴場には、連日数万人の海水浴客が訪れる海岸において、避難誘導における統制を図るのは不可能と言えます。避難経路として想定されている道路の中には道幅が狭く入り組んでいる箇所も多々あり、大勢の人々が一斉にこれら道路に押し寄せてしまうことは避難どころか危険ではないか?複数のルートに分かれて率先誘導するほどライフセーバーの数は十分と言えるか?その他、大多数の人が真夏の炎天下にアスファルトを裸足で避難することが想定されるなど、3.11から10年を迎える現在でも取り組むべき課題が多いのが現実です。
地域の海の安全に携わる民間クラブ、そして一市民としてできることは、あの日を忘れずに継続して啓発し続けることに尽きると考えています。
鎌倉ライフガードでは、海岸利用者と一緒に実際の避難経路を歩いて目的地への道順や周辺環境の確認をしたり、津波避難経路の解説動画をYoutubeにアップしたりしてきました。これからも市民を含め、海水浴や観光で海岸を利用する一人一人の意識向上に向けて、微力ながら貢献してゆきたいと思います。
鎌倉ライフガード 代表 槇 仁彦
ライフガードと歩く津波避難経路・鎌倉材木座海岸その1・その2
ライフガードと歩く津波避難経路・鎌倉由比ヶ浜その1・その2
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